デリバティブ偏愛家の日記

弱小投資家の相場備忘録

銀行の運用部門のお仕事 第3話「とある行員の(リアルな)日常」

前回は運用部門で取り扱うアセットの紹介をしたが、今回はもう少し具体的な日常の話について書いていく。

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plnjpy.hatenablog.com

銀行や証券会社の新卒採用のHPを見ると、「ある先輩社員の一日」が紹介されているのをご存知だろうか?

実際どうなの?というところをお話ししたい。

お断り

これは再掲だが、筆者がいたのは外銀でもメガでもないので、その辺りは参考にならないので注意して欲しい。とは言え、運用部門にいたのはメガや外銀からの中途採用がほとんどだったので、文化は多少似ていると思われる(特にメガ)。

 

素敵な行員の一日

よく見るHPでの記載例はこのような感じである。

5:30 起床。熱いシャワーを浴びて頭を起こす。コーヒーを飲みながら昨日のNY市場の動きをBloombergでチェック。

6:30 出社。サンドイッチを頬張りながらロンドン、NYのリサーチから届いた膨大なメールに目を通す。

7:30 朝のミーティング。当日のマーケットのイメージを共有。

9:00 東証スタート。客玉をこなしていく。最も忙しい時間帯。

11:30 東証前引け。昼はデスクで取ることがほとんど。

12:30 後場スタート。また客玉が飛び交う。

15:00 東証大引け。一日のトレード損益の集計等。

16:00 ロンドンのチームとミーティング。

18:00 自分のアイデアの分析を続ける。

20:00 帰宅。同期と飲みに行ったり、スポーツジムに行って汗を流したりする。

うん、実にありそうだ。個人的には「サンドイッチを頬張りながら」の件が一番気に入っている。 例はほぼ国内株式のトレーダーに見えるが、まあ為替や債券でもあまり変わらない。ただ、これだとセルサイドだが…

 

デリバ亡者の一日

流石に朝は早い

筆者の場合はこのような感じになる。

5:45 起床。即二度寝

6:00 再度起床。確かに上記例のように朝シャワーを浴びる。別に温度は高くない。

6:15 猛烈に眠いが、為替レートはチェックする。職場でのメインは債券だが、昔の職場の癖でチェックするのは為替。

6:45 朝食後はぼーっとしている。そろそろ出ないとやばい。

7:00 電車に乗る。朝早い分、通勤電車はあまり混んでいないので、会社で印刷しておいた論文を読んだりできる。少し真面目だ。

7:45 出社。Bloomberg端末で前日のマーケットの振り返り。これまた上記例に近いが、証券会社の営業さんからロンドン、NYでの動きをまとめたメールが沢山来るので目を通す。ただ、ネタ満載のコラムがついているメールしか読まない。そして何より、サンドイッチは頬張らない。

8:30 朝のミーティング。前日の相場の振り返りと、今日のトレードの確認。例えば当日国債の入札があれば、それにいくら応札するか、といった情報や、水準次第で部長が売ろうと思っている債券の情報等を共有をしたりする。

 

午前は取引メイン

8:45 先物はこの時間に始まる。

9:00 債券の現物も株式同様、一応この時間に始まる。証券会社と異なり、国債に関する客の注文は無いので暇である。ただ、個別株を個人で持っている同部署のおじさんたちが騒がしくなる。相場によっては阿鼻叫喚が始まる。

また、たまに個人向けの仕組預金のカバー取引を行ったりする。これは円金利絡みだったり外貨系だったり為替系だったりと色々である。実際の取引の流れは債券現物もデリバティブもほぼ変わらない。基本的に複数の証券会社にメールや電話で条件を伝え、プライスの回答を待つ("インディケーション"と言う)。市場が動くと各社のプライスが比較できなくなるので、「何時に回答願います」と伝えておく。だが大体遅れる業者が出て来るので催促の電話を入れたりする。そう、例の黒電話で。

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証券会社の営業さんに電話すると「あと2分でプライス出ます!!!!!」等と返ってくる。この人毎回「あと2分」と言ってるが…と思ってもそこはツッコまない。大人のマナーである。どうしてもツッコミざるを得ない場合は電話のミュート機能を使う。便利である。ちなみにこの業者から2分で返ってきたことは無い。

各社出揃うと上位数社で決勝戦となる。勝ち抜いた業者に再度電話をかけて、今時点のプライスを聞く("ファームオーダー"とも言う)。これは同時に聞かないと意味が無いので、上司や同僚と一斉にかける必要がある。ていうか今更ながら電話かよ、という話だが、これが電話しかないのである。為替の世界から来るとカルチャーショックが大きい。人手が足りないと一人で複数の受話器を持って電話することになり、両耳に当てつつ、ミュート機能を使ってほぼ同時に二社と会話していく。結構なカオスだが慣れると楽しい。

営業さんに聞くと、「他社はどんな感じですかね?」と探りを入れてくる。確かに彼らも他社に圧勝する必要は無く、僅差でディールを勝ち取った方が業者の利益が大きいので、当然である。ここでその業者が圧勝している場合、「御社圧勝ですね」と伝えると次回以降プライスが悪くなるので、「うーん、際どく首位保ててます、何とか」等と危機感を煽る演出をしていく。当たり前だが向こうもそんな手には簡単にかからないので、腹の探り合いになる。

 

N証券営業さん「どれくらいでしょう?」

デリバ亡者「いや、絶妙ですね…」

N証券営業さん「(絶妙って何だよ)なるほど、少しお待ちを。」(向こうのトレーダーに確認する)

N証券営業さん「○○(プライス)でどうでしょう?」

デリバ亡者「(若干下げて来やがったか…)はい、お待ちを。」(上司が電話している他社が出したプライスと比較し、この時点でこの業者が首位なら約定)

デリバ亡者「○○で決めでお願いします。」(これで約定)

N証券営業さん「ありがとうございます。○○で決めさせていただきます。」(ここで向こうのトレーダーに約定を伝える)

N証券営業さん「今回もありがとうございました。結局他社はどんな感じでしたかね?(下げたのに勝ったがどうなってんだおい)」

デリバ亡者「いやー御社逃げ切り、という感じでしたね。ありがとうございます。(今回はやられた)」 

 

…N証券とかバレバレじゃねーか!って?いや、昔は日興証券とかいたし…ちなみに約定後、決勝戦に残らなかった業者にもナッシング(約定せず)を伝える。

 

デリバ亡者「すいません、今回はナッシングです…」

C証券営業さん「なんとー。ちなみにどのくらい出てました?」(実際にはディール内容によっては悔しがっていないケースも多々ある)

デリバ亡者「○○くらいですね」(若干プライスは盛る)

C証券営業さん「そんな出てます?!(あり得ないやろ)」

デリバ亡者「いや出るんですよ、反対の玉があったんでしょうね。」(確かに逆サイドの取引が同時にあればプライスは良くなる)

C証券営業さん「どこの業者ですかね?青い銀行系の?」(この手のあからさまな探りを入れてくることもある)

デリバ亡者「あー、違います、オールバックの…」(ほぼ伝えてる)

C証券営業さん「あー!やっぱりオールバックさんですかー。強いなー!」

デリバ亡者「次回もよろしくお願いしますー」

 

…オールバックのN証券ってバレバレじゃねーか!って、いや、内藤証券とかもありますよ。一社に特定されませんよ(棒)。

 

11:00 約定も終わり、残処理が始まる。証券会社の営業さんから"コンファメーション"という約定した取引の明細が送られてくるので、これに間違いが無いか確認する。結構な頻度で間違っているので注意が必要だ。

11:30 一旦ランチタイム。為替だと昼休場が無いのでランチタイムでも誰か一人は部署に残る、という運用をしていたが、ここでは特にそういったことはなく、気兼ねなく外食できる。とは言え、一人で外食するのが好きでない根暗な筆者はそそくさと弁当を買ってデスクで食べる。デスクではひたすらBloomberg端末を弄っている。最強の暇潰しアイテム。え?他にやること無いのかって?

 

比較的平和な午後

12:30 後場がスタート。ぼーっとしているとバックオフィスから午前の取引をちゃんとシステムに入力しろ、と催促の電話が来る。あー、やらなきゃ。

約定が電話なので、当然システムと取引はリンクしていない。電子取引がメインの為替では全自動でシステムに約定データが入るが、債券やデリバはそうはいかないのである。

債券の約定入力は簡単で、銘柄や受け渡し日、約定単価といった簡素な項目を入力すれば終わる。問題はデリバティブで、これはものによってはとんでもなく入力が面倒な場合もある。変なところにノックアウトが付いていたり、ノックアウトの参照期間が途中歯抜けになっていたり、自由奔放なお客様の意向に合わせたオーダーメイド設計のお蔭で入力や確認の手間が凄まじいことになる。入力が終わるとバックオフィスに連絡する。

13:00 相場が動くと証券会社の仲の良い営業さんから電話がかかってきたりする。銀行では見えない生保や年金の動きを聞いたりできる。

13:30 先程入力したデリバの取引情報に間違いがあったりするとバックオフィスから鬼電が来る。バックオフィスの奥様方には普段から低姿勢で臨んでおけば、こういった場面で扱いが格段に良くなる。勿論旅行に行った場合はバックオフィス分のお土産を用意しておこう。

ちなみに取引データの入力、修正はフロントと呼ばれる運用部門でしか出来ない。逆にその承認作業はバックオフィスでしか出来ない。互いに牽制し合う構造となっている。

14:00 色々終わって暇な時間帯。Bloomberg端末で色々データ分析をして過ごす。これが一番楽しい。大半はボラティリティ分析をしてニヤニヤしている。変態ではない。

15:00 重要。おやつタイムである。大引けとか関係ない。個別株を持っているおじさんたちが大人しくなる。静かなため息が聞こえるケースが多い。

16:00 他部署と会議が入ったりする。リスク管理部門が驚く程保守的で毎回辟易して自席に帰る。分析の続き。

 

意外とバタつく夕方

17:00 いや、もう終業でしょ、というタイミングで法人向け為替デリバのカバー取引依頼が入ったりする。手順としては午前中の取引とほぼ同じ。

 

C証券営業さん「うちのプライス、今回自信ある攻めた水準なのですが、どうでしょうか?!」(気合十分)

デリバ亡者「(ファッ?!)…うーん、御社今回最下位ですね…しかも結構突き抜けてます…」

C証券営業さん「ぉおおっ?!」

デリバ亡者「(それはこっちのセリフだよ)」

 

複雑なデリバ程、業者毎にプライシングモデルが異なるので価格の乖離が生まれ易い。稀に極端に良いプライス(本来当行がプレミアムを払う側のはずが、何故か受け取る側となる)を出してくる業者があるが、確実にミスプライスなので、流石にそれで約定はせずにミスではないかと伝える。大人のマナーである。時に数千万円単位で間違えてくるので、そのまま約定してしまいたい、という悪魔の囁きが聞こえてくる。そこは耐える。

また、例え相手が外銀だろうが、新卒社員だと電話のミュート忘れが多く、電話口から「えーっと」とか「あれ?」「ふーむ」等と漏れ聞こえてくる。和む。

17:30 取引が終わり、せっせとシステムに入力する。バックオフィスから「約定は15時までにしてもらえませんか?!」と鬼電が来る。市場次第なんでね…としか言えない。終業時間なので、上司含め周りが帰り始める(普段は自分も定時で帰れる)

17:45 光速で入力を終えると、光速でバックオフィスから鬼電が来る。…そう、入力ミスだ。

18:00 業者から送られてくるコンファメーションもミスだらけで萎える。訂正依頼の電話をする。

 

M証券営業さん「おー間違えちゃいましたか。どこら辺でしょう?」

デリバ亡者「いやーすいませんね、バックオフィスから言われてるもので。こことこことこことこことここと…(どんだけ間違えてんだぁぁぁぁああああああああ)」

M証券営業さん「了解でーす」

デリバ亡者「よろしくお願いします(本当に反省してる?!)」

 

18:30 コンファメーションの確認も終わり、バックオフィスのチェックも終了したので終業である。元気のある日は分析を続ける。分析結果は後日部内のミーティングで発表したりする。

19:30 帰宅。全く運動はしないのでジムに行って汗を流したりはしない。一人晩酌の後はPS4を起動。実にインドアである。

00:00 就寝。明日はどういったボラティリティ分析をするか考えてニヤニヤしながら寝る。繰り返すが、変態ではない。

 

いかがだったろうか。殆ど「入力ミス→バックオフィスから鬼電受けてる」だけじゃないかって?文章的にはそういった印象になるが、実際にはBloomberg端末弄ってる時間が大半。あとはReuter EIKONもあったのでそっちも弄る。他にもマクロ書いてる時間もかなりある。というか社会人になってから1/4はマクロを書いている時間な気がする。

ポイントは営業ではないので全くオフィスから出ない、ということだろうか。インドア派には最高の環境だが、外に出てリフレッシュしたい派には辛い環境かもしれない。

 

次回は取り扱っているデリバティブについて簡単に紹介したいと思う(たぶん"簡単に"は終わらないが)。