デリバティブ偏愛家の日記

弱小投資家の相場備忘録

銀行の運用部門のお仕事 第2話「"ごしあま"との戦い」

前回はほぼ「ロンドン五輪を職場で見まくった」という話で終始した感が否めないが、今回は多少真面目な話を。

↓前回はこちら

plnjpy.hatenablog.com

 

案外多彩な業務範囲

私のいた銀行は行員数が少ないこともあり(かつ若手も少なかった)、運用部門と言えども色々と経験することが出来た。主に以下が担当範囲となっていた。

  1. 流動性の高い有価証券(主に債券)の運用
  2. 個人向け仕組み預金や法人向けデリバティブのカバー取引執行
  3. ALM(Asset Liability Management)関連業務

書いていたら凄まじい文字数になりそうだったので、とりあえず3回に分けて説明しようと思う。 

 

有価証券の運用

一応メインの業務である。相変わらず債券先物を取引しているのはこの経験が大きい。

 

そもそもの立ち位置

"銀行"と言うと莫大な資金で債券運用をしているイメージがあったが、預金対比の運用資金で見ると大して大きくない。

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上図は預金残高に対して、貸出、有価証券等の運用側の残高の比率(数字はざっくりイメージ)である。半○直樹のような法人向けの貸出が銀行にとってはメイン業務であり(肝心のドラマは見ていないので間違ってるかも)、あくまで有価証券はその余り金の運用に近い。というのも、貸出金は国債や地方債といった我々が運用する金融資産より利回りが高いから。反面、貸出金はいざ取り付け騒ぎや天災で急遽現金が必要になった場合に、いきなり貸付先から返済を求めることができない、流動性の低い資金でもある。

そこで有価証券の運用部門は貸出金に回さない一部の資金を、即現金に換えられるような商品で運用することが求められる。「○○銀行の豪ドル建て金融機関債」のような素人目には流動性の低そうな商品でも、電話一本で売って翌々日には現金が入金される訳なので、確かに貸出金よりは圧倒的に流動性が高いと言える。

 

何で運用するか

勿論これは銀行の方針次第だが、基本的に「預金」なので無茶は出来ない。FX業者時代は極めてエキサイティングな収益状態(毎日、一日あたりの目標収益の10倍の損が出たり益が出たりを繰り返す日々)だったが、それは会社の金なので好き勝手に出来た訳で(株主「…。」)、銀行はそうはいかない。金融庁様の目も光っているので、堅実な運用が求められる。

日本国債・地方債

金額ベースで見ればメインの資産である。日々の値動きが小さく、リスク量は非常に小さいので平気で100億単位で取引する。自分が入行した時点で短期は全てマイナス金利、10Y(念のため書いておきますが、償還されるまで10年、という意味)でギリギリプラス程度だったので、短期は買っておいて日銀の担保に入れるくらいしか用途は無かった。10Yは唯一まともに先物が使える年限なので、若干ディーリングチックな動きが可能。

20Y以上の国債は銀行によってはやっていたようだが、本来預金側の満期がせいぜい10Yなので、やはりそのような超長期債は生保や年金がメインの戦場。我々はスーパーロングと呼ばれる超長期債の市場動向を高みの見物しているだけ。あそこは凄い。凄まじい金利下落とその直後の上昇を見せる、まさに戦場。語弊のある表現だが、為替をやっている人であればポンドを、株をやっている人であればJASDAQ市場を想像してもらえれば良い。

話は変わって、円建て債券固有の習慣で、証券会社にプライスを聞くと「前日引け時点の利回りからの差分」だけが伝えられる。利回りが高い(債券価格が低い)と「甘い」、逆に利回りが低い(債券価格が高い)と「強い」と表現され、0.001%を「糸(し)」と表現するので、前日引け時点より利回りが0.005%高いと「5糸甘(ごしあま)」という。為替では大体Webのツールでクリックだけで取引できるのに、この世界は未だに電話取引(例の黒電話を使用)がメインで、この表現になかなか慣れずに苦戦した。最初の頃は、とりあえず電話口から聞こえた音をそのまま紙に書き出して理解していたので、「ごしづよ」とか「にもうごしあま」といった意味不明な平仮名が殴り書きされたメモ帳が完成した。退職する頃には多少慣れたが、その後光速で忘却したので、この記事を書くのに再度調べる有様。

金融機関債

商工中金農林中金等が発行する債券。「利付金融機関債」とも呼ばれ、「リッショー(利付商工中金債)」や「リツノウ(利付農林中金債)」等という愛称?もある。最初何語か分からなかった笑。利回りが微妙に国債対比で良いが、リスクは低い(長銀?何のことかな?)。

米国債

ほぼマイナス金利で屍状態の日本国債に比べ、金利も高く信用は極めて高いということで、普段の取引やPLに与えるインパクトとしてはメインとなる資産。CMEに上場している先物がどの年限でも高い流動性を誇るので、安心して取引できる。

円債の「ごしあま」問題を乗り越えた自分の次の敵は米国債だった。こちらには「前日引け値からの差分」という面倒なルールは無かったが、反面、そもそも価格が「整数+分数表記」という謎仕様。$1未満は1/32刻みで、何故かそこに更に1/64を意味する「+」が付くこともある。全く意味不明と思われるので、例を出すと、

【表示価格】=【計算式】=【実際の価格】

「120 21/32」=120+21/32=120.65625

「120 21/32+」=120+(21+0.5)/32=120.671875

何が悲しくてこんなことになってしまったのか。「1/2に刻むのを繰り返していたらこうなっちゃいました(てへぺろ)」とでも言うのか。凄まじく面倒である。いつも食べてるからってピザの感覚で分割してんじゃねーよ、と言いたい(アメリカ人トレーダーへの猛烈な偏見)。

ちなみにこんな厄介な金利の世界であるが、スワップやオプションといった金利デリバティブになると価格表示は、国を問わず全て「bp(ベーシスポイント 1%の1/100)」に統一される。デリバ本当に素晴らしい。そりゃ偏愛家にもなるわ。

MBS

Mortgage Backed Securityの略で、住宅ローンなどを担保にした債券。サブプライムショックでお馴染の商品。勝手にあれで消えたのかと思っていたが、普通に現役だった。

その他外債

どこに手を付けるかは銀行次第。無難?なのは豪ドル建てあたりか、欧州国債。ただ、自分がいた頃はギリシャ問題が深刻で欧州国債は恐ろしくて手を付けずに終了した。

日本株

個別株は出来ないので、株価指数連動型ETFを使う。先物もあってヘッジは容易であるし、そもそも教科書的には債券と株はどちらかが上がれば、もう一方が下がる、という関係なので、国債のヘッジにもなっている。

ファンド

ほぼ個人が買う投資信託と同じと考えて良い。例えば先程の欧州債に手を付けようと思っても、煩雑なリスク管理を少人数で回すよりは外資系運用会社が作るファンド買えば良いよね、という話になる。勿論手数料で色々持って行かれる。

 

…あれ、すでに結構な文字量になっている… 今回はここまでにしますかね。