デリバティブ偏愛家の日記

弱小投資家の相場備忘録

金融庁がFXのレバを10倍へ引き下げる検討しているが、意味はあるのか?

昨日(9/27)、FX業者のレバ規制厳格化検討という記事が日経に出ていた。

www.nikkei.com

元々好き勝手にレバが設定出来た時代から、2010年に最大50倍、2011年に最大25倍と引き下げられてきた訳だが、ここで更に下げるとなると、FX業者の収益に与える影響は流石に大きいだろう。

地味に法人向けは暫く"好き勝手"が続いており、個人でガンガンやりたい人は法人作れば規制の対象外となっていたのだが、昨今通貨ペア毎のボラティリティを勘案して適宜変更する、という業者にとって面倒な仕様に変更された。

早速株式市場で織り込みが始まっており、FX業者各社の28日の価格変化率は以下の通り。

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ヒロセ…!!何故かトレイダーズは上げているが、あそこは金融以外も色々手を出しているので専業とは言いにくい。で、調べていて初めて気付いたのが、いつの間にかマネースクウェア上場廃止していた件。

ネット上には、「それ以前にロスカット水準以上に損失が発生する業者のシステムに問題があるのだから、そちらを厳格化せよ」というような声も出ていて、元業者側の人間として考えを書いておきたいと思う。 

 

そもそものFX業者の収益構造は

レバ規制の本題に入る前に簡単におさらいしておきましょう。下図にあるようにFX業者は銀行(インターバンク市場)と個人投資家を繋ぐ役割である。

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 ①銀行からのレート提供

カバー先から各通貨ペアの取引可能なBid/Askが送られてくるので、FX業者はそれを組み合わせて顧客に提示するBid/Askを生成する。基本的にBest Bid、Best Askで算出されるが、そうすると顧客に提示するスプレッドがガンガン変わることになる。業者のHPに行くと「原則固定○○銭」と謳っているが、あれは月間の全提示スプレッドが月間n%以上出ていないと取り下げないといけない(勿論原則固定スプレッドより狭い場合は問題無い)。となるとスプレッドがガンガン変わって固定スプレッドよりも広くなると困るので、仮に原則固定0.3銭の場合、カバー先のBest Bid/Best Askのスプレッドが0.4銭であった時は強引に0.3銭に寄せる、といった処理が為される。

 

②顧客へのレート提供

生成したレートを顧客に提供する。カバー先は銀行(ないし証券会社)によっては数十ミリ秒(1ミリ秒は1秒の1/1000)単位でレート更新をかけてくるが、顧客に提示するものは遅いFX業者で500ミリ秒くらいの間隔で更新される。

 

③発注

提示されたレートを見て顧客が注文する。ここではUSDJPYの買い(1万通貨)をしたとしよう。

 

④カバー取引

ここには2種類のタイプが存在する(厳密には③にも影響する)。

NDD方式(Non Dealing Desk方式)

 FX業者が顧客のポジションを持たない、現在では非主流の方式。FX業者は、証券会社で株取引をする場合の証券会社の役割とほぼ同じと考えて良い。顧客の注文はカバー先銀行の取引可能なBid/Askを直接参照し、そこで取引が成立するか判断される。当たり前だが業者からすればカバー率(顧客の全取引に対するカバー取引の割合)は100%になる。業者収益は銀行からの提供レートに若干上乗せした手数料分となる。

DD(Dealing Desk方式)

FX業者が直接顧客の相対取引の相手となる主流の方式。特に「NDD」と明記されていない場合は全てこれ。上の図でUSDJPYの買いを発注した場合、投資家Xは1万通貨のUSDJPYロング、業者は1万通貨のUSDJPYショートとなる。で、ここから業者が「USDJPYは上がる」と考えればすぐに銀行にカバー取引(USDJPY買い1万通貨)をしてポジションをゼロにする。逆に「USDJPYは下がる」と思っていればそのまま放置する。放置していてすぐに、別の投資家YがUSDJPY1万通貨の売りをしてくるとカバー取引をせずともポジションがゼロになる。これが業者にとっては最良のパターンで、この場合カバー取引コストがかからずに、かつ最初投資家XのUSDJPY買いと、投資家YのUSDJPY売りの価格にはスプレッドがあるので、そのスプレッド分が丸々収益になる。

 

本題、レバレッジ規制について

やっと本題である。フランショックやブレグジットといった急変は金融市場では意外とある。今回検討されているのは、そういった急変による想定外の損失から個人投資家を守ろう、という訳だ。

 レバレッジを下げれば良い話なのか

確かにレバが極端に高いのは射幸性を煽り過ぎるので規制すべきだろう。海外の怪しいFX業者でレバ1000倍というものを見たが、USDJPYで約10銭動いたら全証拠金が吹っ飛ぶ計算である。普通の相場ですら平気で5分で消し飛ぶ。これは流石にアウトだろうから異論の余地は無い。だが、例えばフランショックであれば、相対的にまだ動いていない方であるCHFJPYですら、一瞬で120円台から150円台まで上昇している。変化率にして25%なので、レバ4倍の時点で全て吹き飛ぶ計算である。今回の引き下げでも防ぎきれない。

FX業者のカバー能力に問題?

そもそも証拠金以上に損失が出る=強制ロスカット水準できちんとロスカットが執行されていれば、証拠金が全て吹き飛ぶだけで済むのでは、つまりしっかりロスカットを執行できない業者側の問題、との指摘について。

通常の相場環境において、強制ロスカットがきちんと執行されないケースはまず無いと考えて良い。で、問題となるのは先程のフランショックのような場合であるが、実際その状況では世界中のカバー先を探してもまともな流動性が無いので、とてもロスカットを執行できる状態ではない(ロスカットを執行すれば業者は投資家の反対のポジションを抱えてしまう。あの出来事の後、暫くフラン絡みのスプレッドは極めて広い状態で推移した。)。なのでカバー先の銀行を増やしたり、FX業者の約定システムを強化したところで根本的な解決にはならない。

 

【2017/10/9 追記】

フランショックに関して、SBI FX Tradeがこんなレポートを出していた。

スイスレポート|SBI FXTRADE

なるほどEBS上ではあの混沌の中でも約定があったと…ここはフランショックについて語る場ではないので深い話まで踏み込まないが、SBIがレートを出し続けた度胸は評価できる(とは言えSBIはSBI FX Trade以外に住信SBIとSBI証券からのワイドなスプレッドの玉も入ってくるため、通常のFX専業業者より無茶しても何とかなる、という可能性はある)。

レバレッジ規制が厳格化されたところで、レートの提示が止まってしまえば何倍だろうが証拠金MAXでポジションを組んでいれば、フランショックのような値動きで追証となる可能性は残る。そして、ロスカット判定から執行までに最低1ティックは価格が変化するので、どれ程カバー能力が高い業者でも追証がゼロになることは無い。

とは言え、こういった非常事態でのレート提示・約定能力は数値化されないので比較が困難だが、個人投資家側の業者選びも重要なポイントとなるようだ。

 

証拠金以上の損失が出る可能性があることを広めるべし

上記のように防ぎようがないものである以上、周知していくことが重要なのでは。仮に投資に使える資金が100万あったとして、そのうち60万を証拠金として入金したとしても、リスクに晒されるのが60万に限定される、という発想を変えていくことが必要である。 

金融庁金融先物取引業協会(FX業者が所属する自主規制団体)は時折こういった規制厳格化に動くが、結局その都度投資家が金融庁の管轄下の国内業者ではなく、怪しい海外業者に流れ、そこで騙される、という流れを繰り返している。今回もまた同じ流れになりそうだ。悪質な海外業者云々以前に、BitCoinはUSDJPYの6倍近いボラティリティなのにレバ15倍で取引可能なので、どうせなら先にそっちを規制すべきでは、とも思う。健全な投資環境の育成を考えるなら、規制強化よりもリテラシーを高める方に力を注いでもらいたいものである。